教室紹介 ご挨拶

平成22年4月1日より愛知医科大学医学部麻酔科学講座の第4代主任教授に就任いたしました藤原祥裕と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。

私は昭和62年に名古屋大学医学部を卒業後、1年間のローテート研修を経て麻酔科医となりました。その当時は、ちょうどパルスオキシメータとカプノメータという、麻酔の安全性向上に多大な貢献をした二つのモニターが日本で臨床使用され始めた時代でした。その他にも、硬膜外麻酔の普及、一般手術へのオピオイドの応用、セボフルラン、プロポフォール、レミフェンタニルなど、短時間作用型の麻酔薬の開発のおかげで現在の麻酔は20年前と比べ、飛躍的に安全かつ快適なものになったと実感しています。現在、日本麻酔科学会によると、術前合併症のない患者さんの場合、麻酔が原因で命を落としたり、重篤な永久的後遺症が発生したりする可能性は約10万分の1程度といわれています。もちろんこの可能性をゼロにする努力を続けることが麻酔科医に求められるのは言うまでもありません。しかし、その一方で、麻酔の安全性、快適性が改善されるにつれ、われわれ麻酔科医は新たな解決されるべき問題点を見つけ、それを克服することによって社会に貢献していく必要があると考えています。私は、日本の麻酔科医が考えるべき課題は二つあると思っています。

第一の課題は、日本の社会に対して、質的にも量的にも十分といえる麻酔サービスを効率的に提供していく必要があるということです。麻酔の安全性が大幅に改善したにもかかわらず、社会的観点から日本の麻酔を俯瞰してみると多くの問題が潜んでいることに気づきます。日本の麻酔科医は増加傾向にあると聞きますが、実際には依然として、麻酔科医不足あるいは麻酔科医の偏在から、日本の麻酔のうち、かなりの件数が麻酔の専門知識・技術を持っていない医師によって管理されています。これを解決するためには、効率的な組織マネジメントあるいはチーム医療として、他の職種を巻き込んだ周術期管理をどう実現していくか考える必要があります。2010年度医療費総額は36兆6000億円に達しましたが、一番の問題点はその伸び率が国民所得の伸び率を大きく上回っていることです。質の高い医療を実現するためにヒト・モノ・カネが必要だと声高に主張するのは簡単なことですが、いかにローコストで質の高い医療を効率的に実現できるかを考える必要があります。もちろんこれは、現場で汗水たらして働く医療従事者の給与を下げることではなく、あくまでもむだを排除することによって達成されなければなりません。

もう一つの課題は、現代の麻酔関連領域において未だ克服されていない問題の解決への糸口を見出すことです。手術麻酔における過去の輝かしいachievementと裏腹に、神経障害性疼痛、敗血症、全身性炎症反応症候群、急性呼吸窮迫症候群などの治療成績は過去の研究者の不断の努力にもかかわらず、あまり改善が見られないとも言われています。もちろん、近年これらの病態に関する研究もめざましい進歩を遂げつつあります。これらの病態解明あるいは治療法の開発に大なり小なり参画し、問題解決に微力ながらすることが社会に貢献することだと考えます。

日本に限らず、医師は全世界的に社会的地位の高い職業です。しかし、それはわれわれがそれに見合うだけの社会貢献をすることが求められているからだということを忘れてはいけません。みなさんノブリス・オブリージュという言葉をご存知でしょうか?財産・地位・社会的名誉などに恵まれた人ほど、社会に対して大きな義務を負っているという意味です。愛知医科大学医学部麻酔科学講座はノブリス・オブリージュを胸に、さまざまな角度から社会に対して貢献することによって尊敬される存在になりたいと考えております。

皆様、どうぞ暖かいご支援をよろしくお願いいたします。

愛知医科大学医学部麻酔科学教室
主任教授 藤原祥裕