研究・業績

臨床研究

当講座では、新しい知見を得てより良い医療を追求するため臨床研究を積極的に行っており、研究を円滑に進める上で適切な環境が整っています。
年間の症例数が多く、ほとんどの記録が電子化されており最先端の機器がそろっています。これにより、様々な切り口から研究を行うことができます。
また周囲の協力を得ることで、臨床研究の経験がないスタッフも主体となって研究しています。
初めて行う方にとっては、研究計画の作成、書類の準備、統計処理など一人では難しいことがいくつかありますが、経験豊富な指導医が丁寧に指導しています。研究成果は、毎年国内外の学会で発表、または論文としてまとめられています。

現在行っている臨床研究

  • 敗血症における白血球分画の予後予測に関する研究 敗血症性ショックなどの患者さんの白血球分画で、好中球優位の状態からリンパ球優位の移行は全身状態の安定と関係があると言われています。
    今回我々は、この白血球分画の変化と予後の関係を後方視的に検討しています。
  • 敗血症における硬質コルチコイド併用投与に関する研究 2018年のNEJMに少量糖質コルチコイドに加えて、生理的量の鉱質コルチコイド投与が重篤な合併症を起こすことなく90日後の予後の改善が示されました。
    そのため、当科では現在このプロトコールに従った治療を行いその有用性、安全性を検討しています。
  • ICU患者におけるイオン化マグネシウムに関する研究 ICU患者の4割がマグネシウム不足と言われています。
    生理的に活性を持つイオン化マグネシウムを測定することで、実際にマグネシウム不足であるどうかを検討しています。
  • ESP(脊柱起立筋膜面)ブロックの胸腔鏡手術後鎮痛に対する有効性の検討 ESPブロックが呼吸器外科手術後鎮痛に有効かどうかを無作為ランダム化試験で検討しています。
  • デスフルランおよびセボフルランの膝関節置換患者の術後概日リズムに対する影響の比較 デスフルランとセボフルランを使用した全身麻酔後の患者の概日リズムに変化があるかを比較検討しています。
  • 大血管ステント留置術後鎮静度RASSスコアに対するマグネシウム投与の有用性に関する単施設二重盲検ランダム化コントロール試験 過去の臨床研究で、術中にマグネシウムを投与した群で術後のRASSが減少したという報告があります。当講座では、比較的術後せん妄の割合が高い大血管ステント留置術を受ける患者様を対象に、マグネシウム投与と術後のRASSに相関があるかどうかを研究しています。

基礎研究

局所麻酔薬の神経細胞毒性作用に関する分子生物学的解析

局所麻酔薬を脊髄くも膜下麻酔に用いると馬尾症候群やtransient neurologic symptomなどの神経傷害を起こします。どの局所麻酔薬にも神経毒性がありますが、そのメカニズムは不明です。その機序の一つとして、細胞内カルシウム(Ca2+)濃度の上昇が従来考えられてきました。私達は局所麻酔薬によるヒト神経芽細胞腫であるSH-SY5Y細胞の毒性作用を評価したのと同時に、各種イオンチャネルブロッカーを用いて局所麻酔薬(特にブピバカイン)の神経毒性を制御するイオンチャネルを同定しました。さらに、分子生物学的手法を用いてその発生機序を解析してきました。私達は従来の知見と異なり、局所麻酔薬はT型Ca2+チャネルを遮断し細胞内へのCa2+流入を阻害することを介して神経細胞を傷害させるという新しい知見を明らかにしました。私達の研究によって、局所麻酔薬の神経毒性を制御する分子メカニズムを解明できれば、その毒性作用に対する新たな予防・治療法が開発されるかもしれないと期待しています。

敗血症におけるアドレナリンのβ2受容体活性化を介した炎症反応抑制作用の研究

敗血症は感染症によって生じる全身の炎症反応であり、集中治療領域では非常に重要な位置を占める病態です。これまで多く基礎・ 臨床研究が行われ、様々な治療法が開発されてきました。最近の研究から、自律神経系が免疫細胞機能を強く制御していることが明らかにされましたが、敗血症の病態発生と自律神経系(特に交感神経系)との関係については不明です。私達はヒトやマウスのマクロファージであるTHP-1細胞やRAW264.7細胞と敗血症モデルラットを用いて、LPSによる炎症反応においてアドレナリンはβ2受容体の活性化を介して炎症反応を抑制することを発見しました。私達は敗血症におけるアドレナリンの新しい役割を解明すると同時に、敗血症に対する新しい治療法の確立に貢献したいと考えています。

大学院

日々の臨床業務で疑問に感じたテーマについて臨床に還元できる研究を遂行しています。
その結果を積み上げていくことが社会貢献につながると考え、大学院入学後はそのような機会を持てるよう積極的に取り組んでいます。
当講座の大学院教育の特徴は、独自に基礎研究のための各種の方法論(電気生理実験、細胞内各種経路の分子生物学的検討、遺伝子操作の手法など)を持ち合わせていることです。
研究テーマについては、入学後に本人の希望を聞き、興味のあるトピックを掘り下げて相談しながら決定していきます。
また教員および在学中の大学院生が次世代の学生のために新しい方法論やテーマを切り開くこともあります。
大学院生は、週に1日の研究日を利用して研究活動を行っており、その他は臨床業務に従事しています。
研究成果については、適宜、アメリカやヨーロッパなどの国際学会や国内学会において積極的に発表していくことで、国内外におけるプレゼンテーション能力の向上にも取り組んでいます。

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